文化財建築でサムライ体験!居合道に相撲、懐石料理まで空港のある街・泉佐野で日本文化を満喫
2025.01.30
知る人ぞ知るローカルな大阪の街の魅力を紹介する「1DAYローカルツアー」。今回は関西国際空港を擁する泉佐野市を取り上げます。世界とつながる街には、日本文化の粋に触れられるスポットが盛りだくさん。イギリス出身のジェームズさんと一緒に、その深い魅力をひも解いていきます。
関西国際空港の対岸に位置する泉佐野市。大阪、ひいては関西の空の玄関口で、毎日多くの外国人観光客がこの街を通過します。一方では中世に荘園が成立し、江戸時代にかけて大阪南部の経済拠点へと発展した歴史ある街という顔も。その背景には市内にいくつもの街道が通り、海運にも優れるというアドバンテージがありました。
海浜部には廻船問屋や豪商が所有していた「いろは蔵」や、まるで迷路のような旧市街「佐野町場」が残るほか、和歌山との府県境の山間にはパワースポットとしても知られる「犬鳴山温泉」もあります。また明治中期には日本で初めてタオルが生産され、現在も「泉州タオル」のブランドでその名が知られています。
そんなバックボーンを持つ泉佐野市には、日本文化を体験できるスポットも点在。侍体験や相撲ショーなど、関空からすぐという好ロケーションの街のひと味違った楽しみ方を、イギリス出身のYouTuber・ジェームズさんが案内します。
-
ジェームズイギリス出身。大学で日本語を学び、2017年に来日すると和歌山県で外国語指導助手やサッカーのコーチを経験。現在YouTubeチャンネル「Samurai Chronicles 」を通じて、日本文化の魅力を世界に発信している。
YouTube
泉佐野駅から登録有形文化財のお屋敷へ!
南海なんば駅から電車で30分ほど、泉佐野駅に降り立ったジェームズさん。まずはここから、国の登録有形文化財にも登録されている昭和初期建設のお屋敷を目指します。
タクシーに揺られることすぐ、小高い丘の上に姿を現したのが船場の実業家が自邸と迎賓館を兼ねて建てた「泉佐野 新井家住宅」。純和風の建築美に、ジェームズさんも興味津々です。
思わず見入ってしまいそうなところですが、実はここからが本番。日本文化を肌で感じられる体験が、ジェームズさんを待ち受けていました。
気分は侍そのもの? 精神統一から抜刀まで居合道を体験!
新井家住宅でジェームズさんを出迎えてくれたのは、地元で居合道の道場を営む吉塚寿幸(よしづか・としゆき)さん。そもそも居合道とは古来の剣術をルーツに持ち、鞘に収めた刀を素早く抜き放って、流派ごとの形を演武した上で納刀するまでの一連の流れを現代武道化したもの。剣道などとは違い、対戦形式は取りません。刀の取り扱いはもちろん礼節や精神性を重んじる特徴があります。
というわけで、さっそく普段着から袴に着替えてスタート。YouTubeでは何度も和装姿を披露してきたジェームズさんも、本物の剣士と向き合うなかで自然と背筋が伸びます。
袴姿もビシッと決まったジェームズさん。まずは吉塚さんの指導に従って座禅で精神を整えます。無我戸山流居合抜刀術(むがとやまりゅういあいばっとうじゅつ)には、仏教の教えも織り込まれているのです。
「もともと人を殺めるための剣術でしたが、命を取るにしても憐れみや情を持たなければならない。目を閉じて空気の流れや鳥のさえずりに耳を澄ませ、世界には自分やいろいろな人が生きていることに思いを馳せるのは重要な鍛錬です」と吉塚さん。おりんが鳴らされ、般若心経、不動真言が読み上げられるなか、ジェームズさんは自分自身と向き合います。
約8分におよぶ座禅で、警策が使われたのはたったの一度だけ。ジェームズさん、侍も顔負けの見事な集中力でした!
続いては庭園に舞台を移して演武を体験します。ここからの指南役は吉塚さんの息子、秀幸さん。キャリア10年超、全国大会での優勝経験もある猛者です。
ここでも大切なのが礼儀作法。場所、刀、相手の三者を敬う気持ちを込めて礼をするところからスタートです。ピリリとした緊張感が場を支配します。
今度は「細かいことは言わないので、刀を抜いて、しまってみてください」との秀幸さんの声に従い、抜刀! 鞘に引っ掛かるなどしてうまくいかない人も多いというなか、ジェームズさんはスムーズに決めてみせました。これには秀幸さんも「お見事です」と感心するばかり。さすが、自身のYouTubeチャンネルで殺陣を披露しているだけのことはあるようです。
ジェームズさんの飲み込みのよさを知ってか、秀幸さんの指導も徐々にヒートアップ。よりコンパクトな動作で刀を抜くコツ、刃先についた血を振り払う血振りなど、実戦に近い動作が伝授されていきました。
抜刀、構え、血振り、納刀と、居合道の基本動作をみっちり教わったジェームズさん。戸山流が旧日本陸軍戸山学校で編み出された歴史についても、興味深く耳を傾けていました。
さらには先生たちによる真剣を使ったパフォーマンスも。その道のプロフェッショナルが繰り出す技は、まさに迫力満点でした。
お稽古の最後は刀を構えて記念撮影。およそ1時間半の体験を経て、ジェームズさんの姿からはどこか侍を思わせる凛々しさが感じられるようになっていました。決まっています!
隠れた泉州名物! ワタリガニで腹ごしらえ
居合道で汗を流したあとは、事前に購入していたご当地で愛されるお弁当で腹ごしらえ。創業60年を迎えようという老舗「割烹松屋」のかに飯をいただきます。
実は泉佐野を含む泉州の沖合は、古くからワタリガニが特産品。かつてはおやつ代わりに食べられていたこともあるというから驚きです。それが現在、ワタリガニを専門に扱うのは割烹松屋くらいということ。12時間にわたって漁に出ても、4〜5匹獲れれば御の字という希少品になっています。
絹のように繊細な身は、濃厚な味わいが最大の特徴。コシヒカリがそのだしを受け止め、飽きることなく楽しめます。ジェームズさんも無心になって頬張っていました。ちなみに店舗ではワタリガニ三昧のコースやカニ鍋も提供。泉州の隠れた美味に舌鼓を打ってみては?
営業時間:12:00~14:00(L.O.13:30)/17:30~21:30(L.O.21:00)
定休日:月曜日/第1・第3火曜日(※1月、8月、12月は除く)
電話番号:072-462-3740
公式サイト
あの名大関がプロデュースする相撲ショーを目撃!
タクシーに揺られることおよそ15分。ジェームズさんの次なる目的地は「相撲レストラン 越智泉部屋」です。なんとここ、平成の名大関・小錦さんがプロデュースしているレストランです。相撲部屋の定番料理であるちゃんこ鍋を楽しむことができるほか、相撲のイロハが分かる本格的な相撲ショーが開催されています。
ジェームズさんがセレクトしたのは、ショー観戦のみを楽しめる「梅コース」13,000円。ちゃんこ鍋食べ放題の「竹コース」17,000円なども用意されています。
さあ、司会者の呼び込みで「大阪城」と「大谷」の2人の力士が土俵入りしました。四股や股割りといった相撲の基本動作、決まり手の数々を披露していきます。
ショーの合間には禁じ手の紹介や力士の体重を当てるクイズの時間も。日本の国技にコミカルな演出を加え、新たなエンターテインメントに昇華しています。
ひとしきりの解説が終わると、いよいよ三本勝負。両力士の気迫のある取り組みに、ジェームズさんも興奮気味に視線を注いでいました。
ショーが終わっても、まだまだ演目は終わりません。最後は大人気の相撲体験コーナー。相撲スーツに身を固めたジェームズさんも土俵入りし、大阪城関を相手に大金星を上げました!
営業時間:12:00~15:00、17:00~20:00
定休日:月曜日/火曜日/水曜日/木曜日
電話番号:072-447-6711
公式サイト
ツアーの〆は“ザ・ニッポン”な懐石で!
さて、ジェームズさんが最後に立ち寄ったのは、隠れ家的なロケーションの日本料理店「和モードちよ松」。地場産食材をふんだんに使った懐石料理をいただきました。
ジェームズさんが選んだのは、前菜、季節の吸い物、お造り、鮮魚の特撰逸品、天ぷら、握り、甘味の7品からなる「やまと」。ワタリガニ、エビ、タイノコなどがずらりと並びます。代表の千代松慎也さんによれば、泉州の海は大阪湾内に位置しているため、年間を通じてさまざまな海の幸が獲れるのが特徴。料理を通じて、その豊かさを覚えて帰ってほしいとの思いがあります。
次々に供される美味を前に、ジェームズさんも気になるところがたくさん出てきたよう。椀物と刺身でその店の味を確かめる「椀刺(わんさし)」の文化、店で使われている堺の包丁などについて、質問が止まりません。こうして知的好奇心を満たしてくれるのも、店の人との距離の近さゆえ。スタッフ全員がホテル勤務を経験しているとあって、細部にまでおもてなしが行き届いています。
そしてもうひとつ、店を特徴づけるのが国産ウィスキーの品揃えの豊富さ。食事を楽しくするアイテムとして、和食との取り合わせという意外性でコントラストを演出しています。千代松さんが目指すのは「記憶に残る味」を提供すること。その意味でも、ウィスキーは欠かせないピースになっているようでした。
営業時間:11:30~14:00 (L.O.13:30)/17:30~21:30(L.O.20:30)
定休日:水曜日
電話番号:072-415-1780
公式サイト
世界とつながる街で日本を体感しよう!
建築、武道、そして美食と、日本が育んできた文化をたくさん吸収できた今回のツアー。ジェームズさんも「日本人の心の部分に触れられた」と満足げに振り返ってくれました。世界とつながる空港のご近所は、こんなにも個性豊か。単なる通過点にするのではなく、一度ゆっくり訪れてみてはいかがでしょうか。
- Text
- 関根デッカオ
- Photo
- 高津祐次
- Edit
- 高津祐次
- Direction
- 人間編集部
※掲載情報は2025年2月時点のものです。掲載店舗・施設に関する最新の営業時間は各店舗・施設のHPなどでご確認ください。