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ドイツ出身の茶人が、千利休ゆかりの堺へ! 民衆が育んだ茶の湯文化を体験

2024.12.12

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大阪の魅力を偏愛的マニアがお届けするスポットガイド「OSAKAマニア探訪」。今回は茶人・千利休の生誕の地として知られる堺市で、茶の湯にまつわる名所やお店を巡ります。

仁徳天皇陵古墳(画像提供:堺市)

大阪市に隣接し、府内では人口・面積ともに第2の都市である堺市。巨大な古墳群「百舌鳥・古市古墳群」は、2019年に大阪初の世界遺産に登録されました。また、堺は15世紀から遣明船の発着港となり、国際貿易港として発展した歴史も有名。当時の繁栄ぶりは”黄金の日日”と謳われるほどで、海外のモノや技術が行き交う中で、鉄砲・刃物・線香など、数々の産業が発展していきました。

そして、堺商人たちの間で流行したのが、茶を点てて相手にふるまう「茶の湯」の文化です。茶の湯を発展させたことで有名な千利休も、実は堺の商家の出身で、生涯の大半を堺で過ごしました。商人たちの中には自邸に茶室を作って日常的に茶の湯を楽しむ人もいるほど、その存在は身近なものだったとか……。堺市は、日本を代表する伝統文化「茶の湯」を語るうえで、欠かせない存在なのです。

今回は、ドイツ出身で煎茶道を究める沢田羽照さんが堺市を訪問。茶の湯の精神が息づく名所や千利休ゆかりの地を訪れ、現在まで伝わるお茶の精神性を深掘りします。

\今回のガイド/
  • 沢田 羽照(さわだ・うて)
    ドイツ出身、京都在住。ケルン大学で日本学を専攻し留学を経験。知人の紹介をきっかけに煎茶道の世界へ。2024年11月に煎茶道黄檗売茶流・師範の免状を取得。寺社仏閣をはじめ、さまざまな施設でお手前を披露し、茶文化の発信と普及活動に取り組んでいる。
    Instagram

堺が誇る名茶室「伸庵」へ。お庭を眺めながら、老舗茶舗の5代目・谷本さんに堺のお茶文化を学ぶ

最初に訪れたのは、広大な敷地を持つ大仙公園の北側エリア。古墳に囲まれた公園内に、四季折々の表情を見せる茶室「伸庵」はあります。

公園内にある茶室「伸庵」。国の登録有形文化財に指定されており、堺市が保存・活用に取り組んでいます。

今回、案内を務めてくれたのは、茶葉の加工販売を手掛ける「つぼ市製茶本舗」5代目、谷本順一さん。茶鑑定士六段の資格を持つ国内トップクラスの目利きであり、江戸時代から続く老舗を経営するかたわら、表千家流で修練を積む茶人でもあります。

掛け軸の「日々是好日」は沢田さんが最も好きな日本語の一つだそう。

二人が訪れた「伸庵」は、数奇屋造の名匠として知られる仰木魯堂が1929年に建てたもの。にじり口のある茶室など和室が10室あり、現在もお茶会などに利用できるほか、椅子に座って気軽にお茶を味わえる「立礼呈茶(りゅうれいていちゃ)」のサービスもあります。

沢田
私は初めて堺に来たのですが、堺のお茶の文化はどういったところが特徴的なのですか?

谷本
なんといっても民衆が育てたという点ですね。武士や僧ではなく、商人が文化の担い手でした。貿易で栄えた街だったので、財力や政治力を持っていたという面もありますが、商売をしながら文化を楽しんでいたという点では私たちと同じです。

沢田
私が住んでいる京都には茶の湯にゆかりのあるお寺が多いですし、宇治茶も有名です。普段の暮らしの中でも、さまざまな伝統文化が息づいている街だと感じますが、堺もお茶と深いつながりがあるんですね。

提供:つぼ市製茶本舗
出典:「住吉堺名所並ニ豪商案内記」 川崎源太郎/著 1883年

谷本
京都といえば、宇治茶を広めるのに一役買ったのも堺商人といわれているんですよ。持ち前のマーケティング能力と物流網を駆使して、産地をブランド化したのでしょう。各地の大名たちは、堺商人の教養の高さにも一目置いていたようで、堺は茶の湯文化を全国に広める立役者になっていたんです。

沢田
商人が携わっていた時代ならではですね! そして京都と堺の関係も面白いです。

「お茶」と一口に言っても二人が探究する道は異なります。茶葉を粉末にした抹茶を使う「茶の湯」に対し、沢田さんが専門とするのは茶葉そのものを利用する「煎茶道」です。互いの作法や道具の違いなど、話題は尽きない様子。ここでは谷本さんが表千家流のお点前を披露し、沢田さんをもてなしました。

選ばれた抹茶茶碗は、渡来した「南蛮人」が絵付けされたもの。「南蛮貿易で栄えた堺で、外国から来られた沢田さんにお出しする茶碗として、意味合いもぴったり」と谷本さん。
自身の専門である煎茶道とは作法が異なるため、沢田さんは谷本さんの手ほどきを受けながら抹茶を味わいました。

谷本
伸庵は立派なお茶室でしょう。「数奇屋造」といって、昔の書斎である「書院」がしつらえられた格式高い建物です。

沢田
緑がたくさんの庭園も美しいですね。堺に来て早速、こんなお茶室に入ることができてうれしいです。ところで商人のお家にも茶室があったのですか?

谷本
全ての家にあったわけではないです。その場合は、広間に屏風を立てたりして空間を小さく仕切って、茶室に見立ててお茶を点てていました。生活の中で工夫していたところも民衆ならではですね。

堺市茶室 伸庵
堺市堺区百舌鳥夕雲町2(大仙公園内)
Google map

営業時間:9:30〜16:30(立礼席・椅子席は10:00〜16:00)
定休日:月(祝日の場合は開館)、年末年始、堺市博物館の休館日
電話番号:072-247-1447
料金:庭園無料、立礼呈茶一杯500円(立礼席・椅子席のみ)
(公社)堺観光コンベンション協会公式サイト

大仙公園に広がる隠れた名庭を散策。茶に魅了された先人たちに思いをはせる

公園内の遊歩道を抜け、「大仙公園 日本庭園」へ。国内外に美しい庭園を残した造園家・中根金作氏が設計したもので、園内をぐるりと散策できる日本の伝統的な様式を採用しています。

どこを切り取っても美しい庭園は、ウエディングフォトなどの撮影地としても人気です。
池泉(ちせん)を取り囲むように休憩舎や築山などが配され、豊かな風景を作っています。

谷本
この池の周りには、堺の自然に見立てた場所があるだけでなく、中国の風景が織り込まれています。この対岸にある築山(つきやま)は、中国の名山「廬山(ろざん)」を表したもの。茶の湯の先人たちも、中国の文化を尊敬し、心酔していたといわれています。

沢田
煎茶道の教えも、中国への敬意を感じる部分が多いですね。特に「茶仙」といわれる盧仝(ろどう)(「七碗茶歌」という作品が有名な唐の詩人)は有名です。

谷本
大陸のおおらかな景色を表現しているという意味で、このお庭もお茶に通ずる精神性を表しているということができるんです。訪れるたびに「やっぱりええ庭やなぁ」と感動します。

沢田
京都にも有名な庭園がたくさんありますが、堺にはこんなに広くて美しい庭園があるんですね。寒い冬に見る景色も素晴らしいだろうなと思います。繰り返し訪れたいお庭ですね。

大仙公園 日本庭園
堺市堺区大仙中町17(大仙公園内)
Google map

営業時間:9:00〜17:00(入園は〜16:30)
定休日:月(祝日の場合は翌平日)、年末年始
電話番号:072-247-3670
料金:大人200円、小・中学生100円
公式サイト

茶室と日本庭園を擁する大仙公園に来たならば、すぐ北側にある「百舌鳥古墳群ビジターセンター」も見逃せません! ここは世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」の見どころや歴史を学習できる施設です。8Kの空撮映像で古墳群の雄大さを体感できるシアターを常設しており、観光案内所ではレンタサイクルの貸し出しなども行っています。

精細な画質の空撮映像は迫力満点。カーブしたスクリーンの前に立って鑑賞すると、まるで鳥になって古墳を見下ろしているかのような感覚になります。
古墳の所在地、特徴を解説するパネル展示のほか、古墳グッズをはじめとしたおみやげの販売も。
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百舌鳥古墳群ビジターセンター
堺市堺区百舌鳥夕雲町2-160
Google map

営業時間:9:00〜18:00
定休日:年末年始
電話番号:072-245-6682
料金:無料
(公社)堺観光コンベンション協会公式サイト

茶の湯を深掘りするなら「さかい利晶の杜」! 豊富な展示で歴史ロマンに浸る

茶の湯の歴史や千利休について、より深く体系的に学ぼう、ということで訪れたのが「さかい利晶の杜(もり)」です。利晶の杜は、千利休と歌人・与謝野晶子の人柄や歩みを発信する文化観光施設。堺出身の二人の人物像を通して、堺の歴史と文化について知ることができます。

エントランスの床には古地図が拡大印刷されており、環濠が残っていたころの区画整備や土地利用の様子がわかります。

谷本
堺は堀に囲まれた環濠都市でした。規模としてはこれだけの小さな街ですが、そこに住む商人たちの自治によって栄え、さまざまな文化が成熟したんですよ。発掘調査をすると、お茶の道具や、豊かな生活を想像させる陶磁器などが出土します。

沢田
堺に住んでいた人たちにとっては文化的なたしなみが身近なものだったんですね。地図とお話から、日本文化が凝縮して育まれた地域だったということがよくわかります!

展示室ではパネルや映像から、街の歴史や千利休について学べます。

住吉大社の神輿が堺にある御旅所まで巡行する様子を描いた「住吉祭礼図屏風」は、鮮やかな映像に編集して展示されています。安土桃山から江戸時代初期にかけての、堺商人の暮らしを読み解くヒントが詰まった資料です。

谷本
民家の造りに注目してください。玄関口とは別に、小さな出入り口があるのがわかります(写真の左、丸印のあたり)。その先には「露地」があり、奥にある茶室に続いています。

沢田
自分の家に茶室を取り入れていたことが、絵に残っているんですね!

谷本
しかもその茶室は、質素な草庵風の造りです。このように商人たちは、利休が説いた茶の湯の精神を自分たちなりに解釈し、アレンジして親しんでいました。

沢田
先ほど訪れた伸庵ほど大きくなく、少し性質も違う気がしますね。

谷本
そうなんです! 街の中にありながら、まるで山の中にいるように感じる茶室を「市中の山居」といいます。堺ではそのようなスタイルが好まれました。

沢田
民衆が暮らしの中で楽しんでいたという点では、今の私たちと共通していますよね。堺の文化は、現代につながる起源になっているように感じました。

谷本さんが出土品の茶道具など、歴史的な資料を用いながら堺のお茶文化を詳しく解説。

敷地内には、千利休が造った茶室「待庵」の創建当初の姿を復元した「さかい待庵」も展示されています。豊富な資料から、千利休や茶の湯文化について深く学ぶことができました。

さかい利晶の杜
堺市堺区宿院町西2-1-1
Google map

営業時間:千利休茶の湯館・与謝野晶子記念館は9:00~18:00(最終入館 17:30)、観光案内展示室は9:00~18:00、茶の湯体験施設は10:00~17:00
定休日:第3火(祝日の場合は翌日)、年末年始 ※観光案内展示室は年末年始のみ休み。
電話番号:072-260-4386
料金:千利休茶の湯館、与謝野晶子記念館:大人300円、高校生200円、中学生以下無料、観光案内展示室:無料
公式サイト

堺の老舗「つぼ市製茶本舗」のカフェで、お茶づくしの料理を味わう 

最後は谷本さん自ら、「茶寮つぼ市製茶本舗 堺本館」に案内してくださいました。つぼ市製茶本舗は1850年に堺で創業した、170年以上の歴史を誇る老舗茶舗です。堺本館は、紀州街道沿いに建つ江戸時代の町屋をリノベーションした旗艦店。広々とした店内には、自慢の茶葉や関連商品を扱うコーナーもあり、気軽にお茶を楽しめるスポットになっています。

お庭に面した窓際の席でほっと一息。専門店のお茶を、くつろぎながら楽しめます。
谷本さんのお勧めは「お茶料理と茶粥の一期一会セット」。香り高いほうじ茶を使用した茶粥、味付けにお茶を使った野菜の煮物や魚など、こだわりのお茶を存分に味わえます。(画像提供:つぼ市製茶本舗)
多彩なお茶が陳列された売り場。好みなどをスタッフさんに伝えて、相談しながら選ぶこともできるそう。
元の町屋のよさを生かした空間でお買い物をしたり、お茶を味わったりできるなんて幸せです。カジュアルな商品から本格的な茶葉、玉露まで品揃えも豊富!吹き抜けの天井や緑の美しい中庭など、開放感ある空間にもほれぼれします。
茶寮つぼ市製茶本舗 堺本館
堺市堺区九間町東1-1-2
Google map

営業時間:11:00~18:00(L.O.17:30、物販は10:30~18:00)
定休日:火(祝日の場合は営業)・年末年始
電話番号:072-227-7809
公式サイト

沢田
今日はありがとうございました。茶の湯と煎茶道では、作法や動きが違うところが多く、すぐには覚えられなさそうです……。

谷本
しかし、沢田さんは動き一つひとつがかっこええ。実は「かっこええ」ってすごく大切。現代では「茶の湯」は難しく捉えられがちですが、本来はおしゃれで粋なもの。広く民衆から憧れられてきたものですから。そして流派こそ違えど、沢田さんも一期一会を大切にするお茶の心を深く理解されていることが伝わってきました。

沢田
ありがとうございます。谷本さんのお話を聞いていると、茶会を催す「亭主」やほかの客人に対する思いやりは、煎茶道にも共通していると実感できました。お茶の奥深さを、普段とは違う角度で見せていただいた気分です。ぜひまた訪れたいです。

谷本
なんといっても、かっこええ人がお茶の精神を大切にして、愛してくれていることがうれしいです。一緒にお茶の素晴らしさを広めていきたいですね。

堺の歴史・文化を五感で味わう! 手土産にもぴったりな商品たち

プチプチ食感と香りがたまらない! 代々伝わる製法で作られる芥子餅

商人文化が隆盛を極めた堺市には、歴史ある銘菓も多数あります。このうち芥子餅(けしもち)は、南蛮貿易でインドから芥子の実が伝わったことで生まれた菓子で、千利休も愛したといわれています。

そんな芥子餅の老舗として知られるのが、室町時代創業の「本家小嶋」です。門外不出の製法で作られた芥子餅を頬張ると、芥子の実のプチプチとした食感と同時に香ばしさが口の中に広がります。

ニッキ(写真右)とのセットも人気。
住宅街の中にある店舗は、伝統の味を求める人たちでにぎわいます。
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本家小嶋
堺市堺区大町西1-2-21
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営業時間:9:00〜17:00(売り切れ次第閉店)
定休日:月
電話番号:072-232-1876
公式サイト

お茶をふんだんに練り込んだお香で、空気も気分もリフレッシュ

堺は日本で初めて線香が作られた街としても知られています。南蛮貿易により、16世紀の終わりに中国から製法が伝わったといわれ、寺院が多かった土地柄も相まって線香作りが発展。一大産地となりました。

「奥野晴明堂」は江戸時代から続く老舗でありながら、ユニークな製品を多数展開しています。中でも「茶香 利休茶」は、つぼ市製茶本舗のお茶を練り込んだ、堺名物を組み合わせた一品です。

箱を開けた途端に広がるお茶の香りは、火をつけるとさらに香ばしさが増します。
高級品から日常的に使える線香まで幅広く販売しています。
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奥野晴明堂
堺市堺区市之町東6-2-15
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営業時間:9:00〜17:00
定休日:日・祝、土不定休
電話番号:072-232-0405
公式サイト

茶の湯を通じて、暮らしと心を見つめ直す。利休のふるさと堺の旅

茶の湯と千利休をキーワードに堺市を訪ねると、貿易港の発展を背景に商人たちが茶の湯に親しみ、文化都市としての一面を築いていったことがよくわかりました。また民衆がムーブメントの主役だったという点からは、自治都市であった堺の自由な気風が伝わってきます。

谷本さんは、戦国時代と江戸時代でお茶が担う役割が変化したことに触れ「平和が訪れたことで、もてなしの精神や相手への配慮を重んじるようになり、茶の湯はさらに成熟したんです」とも語っていました。ルーツが異なる二人が同じ茶室で過ごした瞬間も、連綿と続く歴史の1ページだったのかもしれません。

効率化が進んでタイムパフォーマンスが重視される現代では、自分や他者とじっくり向き合う時間はますます貴重になっています。お茶をたしなむひとときは、暮らしの中にそのきっかけをもたらしてくれるはず。谷本さんの発言にもあった「かっこええ」茶の湯文化は、その心を知ることで、私たちが豊かに生きるためのヒントとなりそうです。商人たちが育んだお茶の魅力に出会いに、ぜひ堺に訪れてみてください。

\おすすめガイドツアー/
【DeepExperience】千利休の心に触れる ~茶の湯と禅体験ツアー~

・千利休の精神を受け継ぐ茶室で、本格的な茶の湯体験。茶道の深い歴史に触れることができます。
・茶道の基礎である精神を育む禅体験で心を静め、茶の湯の美意識をさらに深めます。
・地元の日本料理店による季節を感じられるお弁当を和室で堪能。
・茶の湯の歴史や文化をわかりやすく解説するガイド付きで、初心者でも安心して参加いただけます。

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この記事に関わった人
Text
山瀬龍一
Photo
北川暁
Edit
高嶋まり子
Direction
人間編集部

※掲載情報は2024年12月時点のものです。掲載店舗・施設に関する最新の営業時間は各店舗・施設のHPなどでご確認ください。

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