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即興のグルーヴ感!独自進化する八尾の郷土芸能「河内音頭」の魅力とは?盆踊りマニアが楽しみ方を解説
2024.10.04
歴史遺産の宝庫で、大阪を代表する盆踊り「河内音頭」の本場として知られる八尾市。今回は、ひと夏に25回の盆踊りに参加した経験もあり、「マイやぐら」まで作ってしまった盆踊り愛好家、中西祐紀子さんが常光寺の「八尾地蔵盆踊り」に参加。河内音頭の魅力や楽しみ方を案内してもらいました。
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中河内地域に位置する八尾市は、古代より難波と大和を結ぶ要衝の地として発展し、江戸時代には河内木綿の一大産地として繁栄しました。高度経済成長期以降は、全国トップシェアの出荷額を誇る歯ブラシ生産をはじめ、高度な技術力と製品開発力を誇る「ものづくりのまち」として知られています。
また、大阪を代表する盆踊り「河内音頭」の本場としても有名な八尾市。毎年9月に開催される「八尾河内音頭まつり」は、市内最大規模のお祭りとして夏の風物詩となっています。
※2024年は10月26日(土)27日(日)に開催
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「第47回 八尾河内音頭まつり」
開催日:2024年10月26日(土)、27日(日)
会場:八尾小学校、アリオ八尾、LINOAS
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そんな河内音頭の本場である八尾市で、河内最古の音頭発祥の地とされているのが「八尾地蔵」の名でも親しまれている「常光寺」です。今回は、ご開帳日に合わせて毎年8月23〜24日に行われている常光寺の「八尾地蔵盆踊り」に、盆踊り愛好家の中西祐紀子さんが参加しました。
河内音頭は決まった楽譜や歌詞がなく自由度が高いことから、歌謡曲や洋楽の要素と合わさって独自の進化を遂げてきました。2025年の「大阪・関西万博」の開幕が間近に迫るなか、1970年の大阪万博や、2005年の愛・地球博の会場でも踊られた河内音頭。その魅力を紐解きます。
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中西 祐紀子(なかにし ゆきこ)大阪府寝屋川市出身の盆踊りマニア。社会人1年目のとき、ひょんなことから参加した地元の盆踊りがきっかけで、その魅力のとりこに。夏になると毎晩のように各地の盆踊りに出向き、ひと夏で25回の盆踊りに参加したことも。2018年からは「毎日どこかがダンスホール」と題した活動をスタート。組み立て式の「マイやぐら」を各地に持参して出張盆踊りを行い、楽しさや奥深さを伝えている。
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河内音頭の本場・常光寺は、境内で踊れる
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「体を動かし続けるとわいてくる高揚感や、地域の人たちとの触れ合いが盆踊りの魅力」と中西さん。故郷の寝屋川と大阪市内の盆踊りに立て続けに参加したことで、それぞれの地域の違いに気づき、各地の盆踊りに出かけるようになりました(ちなみにことしは「何ヶ所で参加したか数えきれない!」とのこと)。
中西さんが常光寺を訪れるのは3回目。他の地域の盆踊りとは異なる、落ち着きのある優雅な踊りを知って以来、「毎年来たい!」と思うほど惹かれているそうです。
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漏れ聞こえる太鼓の音に導かれて山門をくぐると、本堂の前に組まれたやぐらがお目見え。今では数少ない、境内で盆踊りが行われるのも常光寺「八尾地蔵盆踊り」の特徴です。スケジュールは2部構成になっており、午後7時に始まる前半では河内音頭の原型ともいわれる「流し節正調河内音頭」が踊られます。
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常光寺に唄い継がれてきた「流し節」は、流れるように物語をうたう様子からその呼び名を持ち、河内地域に伝わる最古の音頭とされています。室町時代に常光寺を再建した際、都から材木を運んだときに唄われた「木遣り音頭」が元になっていると伝えられています。ゆったりしたテンポで、素朴ながら優雅さを併せ持ち、現在は「流し節正調河内音頭保存会」が中心となり、継承に取り組んでいます。
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伴奏が太鼓のみというのも流し節ならでは。そこに、音頭取りののびやかな声、そして囃子(合いの手)が奏でられます。生演奏ならではの迫力とゆらぎを持ち、ゆったりと続く流し節を聞いていると、徐々に異世界にいざなわれるような感覚になります。
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地元の踊り子さんをお手本に、しなやかな動きをマスター。初心者にも優しいオープンな雰囲気がうれしい
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いても立ってもいられない様子で、早速踊りに加わる中西さん。紫色の浴衣を着た踊り子さんの間に入れてもらい、見よう見まねで動きを覚えていきます。
一方、踊り子のみなさんは優雅な踊りを続けながら、周りに目くばせをしている様子。踊りに慣れていないと思しき人を見かけると、手足の動きを少し大きくして、まるでレクチャーするように踊りを見せてくれます。安心して仲間入りできる雰囲気は、初心者にもうれしいポイントです。
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河内音頭の踊りは、ゆったりとした「手踊り」や、活発で躍動的な「マメカチ踊り」などさまざまな型があり、誰でも自由に楽しめるのが特徴です。流し節に合わせる踊りは手踊りがベースとなっており、しなやかな手の動きがメイン。10拍が1セットになっている振り付けを繰り返し、やぐらの周りをぐるぐると進んでいきます。
中西さんも、1周回るころには踊りの要領を得た様子。気づけばやぐらを取り囲む輪も徐々に大きくなっていました。
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この音頭、実はラブソング!? 「流し節」は庶民のエンタメでもあった
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踊りの様子を見守っていた保存会の前会長・高橋さんが、音頭で唄われている物語の内容について教えてくださいました。現在、常光寺では6つの音頭を継承しています。このうち「網島心中」は、その名の通り悲恋の物語を唄ったもの。法要としての念仏踊りを源流としながらも、民衆の娯楽として発展してきた歴史がうかがえる題材です。
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保存会のみなさんは毎年、地蔵盆踊りの半年以上前から毎月集まって練習されているそう。「楽器が太鼓だけでしょう? だから、ごまかしがきかないんです」と高橋さん。歌詞が記された冊子を指差しながら、目の前で音頭を披露してくださいました。それにしてもみなさん、日ごろの鍛錬の賜物か声が美しい。
商店街でローカルグルメを満喫! 地元に愛される「音野精肉店」のコロッケに舌鼓
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お祭りといえば、食べ歩きも楽しみのひとつ。常光寺が面する「八尾ファミリーロード商店街」は、踊りが始まる前の夕方から夜遅くまで、多くの人でにぎわっていました。
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活気あふれる屋台も気になりますが、ここではローカルの名店に突撃! ファミリーロード沿いの「音野精肉店」は、創業60年以上の老舗。近所の人が「音野さんのお肉と揚げ物で育った」と語るほど、地域の食卓を支えてきました。
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肉質や味へのこだわりはさることながら、揚げから梱包まで、お店の方の流れるような手さばきは名人芸。10個、20個というお得意さんたちの注文にも次々と応えていきます。
盆踊りなど夜のイベントにお出かけの際は、営業時間のチェックをお忘れなく。余裕を持っての訪店がおすすめです。
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左からコロッケ、ハンバーグコロッケ、ヒレカツ、串カツ。舟皿に盛り付けてもらえるのも、お祭り気分が高まります。
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営業時間:10:00〜18:00(火曜日は10:00〜14:00)
※売り切れ次第、営業終了となる場合もあります。
定休日:水曜日
電話番号:072-991-1129
肌触りが良く、柄もおしゃれ。探究心と郷土愛が復活させた「河内木綿」
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周りの踊り子さんからも注目を集めていたのが、河内木綿の浴衣。中西さんは「しっかりした厚みがあるのに、さらっとしていて着心地がいい」と驚いた様子。濃淡のブルーで染め分けられた柄はモダンに感じられますが、河内木綿特有の文様「古典十七点」のひとつ。NPO法人「河内木綿藍染保存会」の初代会長・村西徳子さんが、古布や型紙などの資料から復刻したという、研究活動の結晶です。
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浴衣と同様、古典文様で染められたうちわと巾着もお借りしました。同法人は、藍染めの作品展の他、糸紡ぎや藍染めを体験できるイベントを企画しています(要予約)。
河内木綿藍染保存会
またこの浴衣は、関連団体が貯蔵していた河内木綿の綿を集め、制作されました。現在八尾市では地域の方々と協力し、かつて地場産業として栄えた河内木綿の栽培を普及させるとともに、農薬を使わない農業を振興する取組等が行われています。
河内木綿のプロモーションとして、大阪・関西万博の期間中に行われる大阪ウィークへの出展も目指しています。
ギターの生演奏が加わる後半は、境内の熱気も最高潮に
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さて、午後9時を回ると盆踊りは後半の部へ。演奏は、ポップスと浪花節を融合させた現代調の河内音頭に切り替わります。エレキギターを中心とした楽団がやぐらに登って生演奏を披露すると、境内はいっそうヒートアップ。やぐらの周りは、瞬く間に老若男女入り乱れる状況となりました。
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時がたつとともに、会場は熱を帯びていきます。参加者は「マメカチ」を始め、思い思いの形で踊りに没頭していました。上半身の動きが中心の「手踊り」に対して、マメカチは足腰も激しく動かす振り付けが特徴。やぐらを取り囲む輪が回るスピードも上がり、ますます盛り上がりを演出します。
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「同じ『河内音頭』といっても、こんなに違いがあると面白いでしょう?」と語りかけてくれたのは、流し節正調河内音頭保存会の現会長・谷岡さん。子ども会やお年寄りに向けて流し節の体験会を開き、地域の一体感を作り上げています。
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今ではアップテンポなイメージが定着している河内音頭ですが、原型である「流し節」と聴き比べると、それぞれの特徴が手に取るように分かります。「私たちは、ゆったりとした流し節も気軽に楽しんで、親しんでほしい。一晩で両方を聴ける場所はなかなかないので、違いを味わっていただけたらと思います」
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10月には恒例の「八尾河内音頭まつり」が、市内3会場で開催予定。さまざまなスタイルの音頭が披露される他、誰でも参加できる「河内音頭大盆踊り大会」も行われます。
「第47回 八尾河内音頭まつり」
開催日:2024年10月26日(土)、27日(日)
会場:八尾小学校、アリオ八尾、LINOAS
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踊りのあとは「八尾グランドホテル」でリフレッシュ。風呂好きをうならせる名湯で、疲れを洗い流す
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踊り疲れた体を癒すには、温泉がいちばん! というわけで「八尾グランドホテル」に足をのばしました。源泉掛け流しなので、その効能を余すことなく得られるのが自慢だそう。しかも22時間営業で、日帰り入浴はタオル、バスタオル、館内着付き。遅くまで踊ったあとに、手ぶらでもOKというのはありがたいです。
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46度の高温泉と18度の水風呂が隣接しており、自律神経を整えるとされる温冷浴の名所としても知られています。
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踊って食べて、締めにお風呂と、八尾の見どころをぎゅっと詰め込んだ一日は、どこに行っても人の温かさを感じました。中西さんは「みなさん優しくて、来た人に楽しんでもらいたいという気持ちが伝わってきました」と振り返ります。その場にいるみんなで輪になって踊る。伝統を大切に守りながら、新しい文化も取り入れる……そんな、河内音頭の懐の深さが、地域の魅力を作っているのかもしれません。
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お土産には歴史ロマンを添えて。こだわりの素材と製法で作る「桃李もなか」
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最後に、八尾のまちと共に歳月を重ねてきたお土産をご紹介。近鉄八尾駅からほど近い和菓子店「與兵衛桃林堂」は、創業90年を超える老舗です。創業当時から親しまれている名物のもなかは、岡山県産のあずきを用いてあんから手作りしています。風情のある茅葺き屋根の建物は、「桃林堂板倉家住宅」として国の有形文化財に登録されています。
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営業時間:9:00〜18:00
定休日:月曜
電話番号:072-929-3663
メールアドレス:[email protected]
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- 山瀬龍一
- Photo
- 山元裕人
- Edit
- トミモトリエ
- Direction
- 人間編集部
※掲載情報は2024年10月時点のものです。掲載店舗・施設に関する最新の営業時間は各店舗・施設のHPなどでご確認ください。